舞台「アット・ホーム・アット・ザ・ズー」を観てきた


前回の日記でハゲタカ充!をした後、三軒茶屋に移動して、シアタートラムへ!入口前には、当日キャンセルの列が出来ていました。この微妙なピリピリ感…スタンディングのライブの入場待ち思い出すわぁ…と思いながら、中へ。中に入ってビックリ、席が近い〜。シアタートラムは、行った事のある友達から、狭くて近いよ〜!と聞いていたのですが、今回は正面の2列目という席で…舞台、めっちゃすぐそこやん…目の前やん…レベルの近さ。はぁあ、南朋さん出てくるの2幕で良かった。1幕から出てきはったら緊張して観られなかったかもしれない…なんてな……。


原作を事前に読もうか迷っていたのですが、先に舞台にいかれていた方から、原作読まないで観てみてほしい!というアドバイスをいただいたのもあり、全く何も予備知識のない状態で見に行きました。ネタバレ含む感想です。


1幕目の「ホームライフ」は、堤真一演じるとっても常識人な夫ピーターと、小泉今日子演じる妻のアンの、それなりにハイソな生活を送っている夫婦のお話。2人の娘とペットのいる生活、生活水準も高め、夫婦仲も悪くなくて、絵に描いた様な勝ち組夫婦なのですが、何気ない妻の一声から、話がどんどん発展していき、二人の性生活の問題にまで。


アンとピーターの話の微妙かつ決定的なズレっぷりは、「あぁ、男の人ってこういうとこ鈍感だよね、わかんないよね」より寧ろ、あー女の人ってこういう話し方することあるわぁ、めんどくさいよねぇ、わかんないよね〜ピーター…だったので、私は寧ろ男性目線だったかもしれない…。でもアンの、こういうこと言ってる自分自身もほんとは嫌なんだ、という自己嫌悪と、それでもピーターに伝えたいという葛藤をキョンキョンは上手く出せてたんじゃないかなぁ。若い女優さんだと絶対ダメだなとは思いました。


嵐が来たら…に続く異常にハイテンションな夫婦のやりとりはどこか白々しく感じて、その後に取り繕った空気の気まずさや、ラストに立ちつくすピーターを見て、多分ピーターはアンの不安・不満を理解することは、一生不可能なんだろうなぁ、という、もやもやした気持ちを持ったまま、一幕はハチャトゥリアンの仮面舞踏会のワルツとともに終了します。


ここで仮面舞踏会の曲持ってくるって、夫婦の幸せな生活が、どこか取り繕った感、演じている感のある(実際ピーターが安全な航海、と例えていますしね。失言以外の何ものでもないぞ〜〜と、見てる側は思うわけですが)ところとかけているのかな?結構ダイレクトっていうかそのまんまやん!と思いつつ。でも好きな曲なので嬉しかったのですけど…ただし脳内では真央ちゃんが滑ってましたけど…


続いて、第二幕「動物園物語」。


仮面舞踏会のワルツとともに、セットががらっと変わります。一幕の始まりは、中央の舞台の床が抜けた状態になっていて、そこから迫り上がってくる演出だったのですが、今度は、舞台後ろの壁が90度前方へ倒れてきて、それが地面になります(壁の裏に二幕の公園のセットがくっつけてある状態です)


一幕の終わり、いつものように公園で読書をしてくる、とアンに告げるピーターに、アンは「気を付けてね」と声をかけます。「何に気を付けろって?」とピーターが聞くが返事はない、という意味深な終わり方をして、この二幕へと繋がっています。一幕のホームライフは今回書き下ろしのオリジナルエピソードだということで、動物園物語への伏線になっている筈です。


見ている側がもやもやを抱えたままのように、ピーターも、これまでの自分の安全航海なやり方は間違っていたのか、と諸々の戸惑いを抱えたまま、公園へたどり着いたのでしょう。それでもとにかく、天気もいいことだしここで「いつものように」読書でも…と思っていたところに、アンの言うところの「ちょっとしたカオス」が起きます。


「動物園に行ってきた!」と突然語りかけてくる見知らぬ男ジェリー。明らかにドン引きのピーター。でもいつの間にかジェリーの話を聞いてしまい、話はディープな方向へ。ピーターはその場を逃げ出したくてもジェリーがそれを許さない…


二幕は本当に先の展開が読めなくて、目の前の出来事について行くのが精一杯。全部見終わった後に思うのは、一度自分の中で消化した今、もう一度、いやあと二回くらい、見たかったなぁ〜〜ということ。頭に入れてから、もう一度、ジェリーの言葉ひとつひとつを拾いたかったです。


ストーリーの説明だけを書くと、ジェリーはただの変質者にしか見えないかもしれないのですが、南朋さん演じるジェリーは意外にすごくチャーミング。ぶっきらぼうに見える表情、上目遣い、突然の怒りや笑顔を絶妙のタイミングで混ぜてきて、「こいつヤバイんじゃ?」と思いつつ、放っておけない…という感じを醸し出していらっしゃいます。


ピーターは、アンにけしかけられて、多分この状況はある意味少しのカオスなのではないか、と思い、ジェリーの話を聞こうと思った、というのもあるとは思うんですが(一幕ホームライフの存在意義は恐らくそれでしょうし)、でもそれだけじゃなくて、この大森ジェリーのほっとけない感、ちょっとないで…!これはピーターも足止めるよ、しょうがないよ!とも思いました。あと、「女」との話に疲れたピーターが、「男」と話したくなったのもあるかもな、とは思いました。事実ジェリーは会話の始め、割とそういうところをつつきながら、ピーターを自分側に引っ張っていってた感があったと思います。細かい台詞をちゃんと覚えていないのですが…


ジェリーが連呼していた「正しい近道のためには遠回りをしなければ」の台詞の解釈がどういうことか、自分の中ではまだ決定的な答えが出ていませんが。目的地が「死」なんではないかとは思っています。ジェリーは死ぬために生きていたのかなぁ、と。目的を「死」とするなら、近道という以上、ジェリーに自殺願望はあったと思うのですが、ただ単に死にたがっていたわけじゃなくて、「正しい近道」、つまり自分の人生を「人」として終わらせる為に遠回りをしている最中だったのかなと。


ジェリーが自分のアパートの住人達のことを話す様子は、客観的です。人付き合いが上手く出来なかったジェリーにとって、もしかしたらこの世界、ニューヨーク自体が、彼にとっては動物園のようなものだと感じていたのではないかな、と思いました。だから、人付き合いの前に、実験的に、大家の買っている黒い犬という動物をコミュニケーションの相手として選んだのかな。だからこそ、真剣なやりとりの結果が「妥協」であった結末に、ジェリーは絶望していたと思います。


でも今回のピーターとのやりとりで、ジェリーは人間とのコミュニケーションを実感出来たかもしれない。ピーターにとっては最悪以外の何ものでもないあの結末も、ジェリーにとっては、予想はしていなかったかもしれませんが、黒い犬との「妥協」という結果から比べると、最悪ではなかったのかもしれない。ジェリーにとって「正しい近道」は成功したのでしょうか…。


しかし、ピーター。彼はこれからどうするんだろう。ジェリーは自殺として処理されて、ピーターに嫌疑はかからないかもしれない。でも根っからの常識人で真面目なピーターには多分耐えられないでしょう、恐らく、家に帰って妻に打ち明けて…。でも一幕を見ていると、アンなら、何てことしたんだアンター!てキレるより、壊れていく旦那を愛することに陶酔しそうなタイプだったりして…という気もしないでもない……


以上、感想を書いてみて思いましたが、自分の中でやっぱりまだうまいぐあいに完結していない!舞台は終わってしまったので、もう一度見ることもかなわないので…。とりあえず原作も買って読んで、もう一度考えてみようと思います。




役者さんの演技ですが、三人とも、本当に素晴らしかったと思います。堤さんは文句なし…ピーターのような、絵に描いたような常識人を、そのままつまらない人間に演じてしまうと、舞台としては面白くなくなってしまうはず。そこを絶妙に、ピーターなりの人間味、愛嬌を入れながら演じてらっしゃったのは、やっぱり上手いんだろうなぁとしみじみ。


キョンキョンは、しゃべり方が若干鼻につくかな?とも思ったのですが、アンという役にぴったりハマってらっしゃった。パンフレットを読んでたら台詞の解釈に「??」となることもあったとのことですが、演技を見る限り、もうちゃんとアンだわ〜〜、と思いました。しかし、ほんとーーに、顔小さいですね……一緒に並ぶと、堤さんがちょっと可哀想なくらいw


南朋さん。まずは大河のあとにこの長台詞の舞台…頭が下がります。お疲れ様です…。喋りまくる、テンションも変わる、動きまわる…。舞台が近かったので、したたる汗も目視出来る程。ジェリーの切なさは上でも書いたのでもうここで書くこともあまりないのですが、本当に南朋さん絶妙のキャスティングですね。他の動物園物語をみたことないので、他のジェリーがどんな解釈かわからないのですけど…。


ちなみに舞台の南朋さんは私ほとんどしらなくて、DVDで見た「LENS」くらいだったのですが、あのときは、演技はともかく、滑舌が気になるな〜〜と思ってたのですが、今回の舞台はそれがほとんどなし。すごく台詞が聞きやすくなってて、うわー成長してらっしゃるーとビックリしました。うーん、役者さんてスゴイ。


…二時間の休憩なしの舞台でしたが、本当に最後まで必死になって見てしまいました。面白かったです。一度しか見られなかったのが残念と、最後にもう一度書く!また今後、別の方が演じる動物園物語があれば、それも見に行ってみたいなと思いました。さて…とりあえず、原作を買うところから、始めます…